別れるとき、さくらは流れた|中前結花
冬は、リビングに駆け込むと、いつも石油ストーブのムッとするような独特の香りが漂っていていて、わたしはこれが特別に好きだった。 実家で過ごしていた頃の話だ。 母は働きに出てはおらず、1日のほとんどをこのリビングで過ごしていた。 娘のわたしが帰ると、必ず玄関まで迎えに来てくれる。 「寒い!寒い!!」 と慌てて靴を脱ぐわたしに、 「おかえり。お部屋あったかいよ」 といつもリビングの扉を開けて招き入れてくれた。 今になって思う。 わたしの学生時代の記憶が半ばおぼろげなのは、もしかすると、このあたたかな部屋のせいではなかったろうか。 つまり、この部屋の外の出来事はすべて、わたしにとっては「有
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