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「知らないもの」って、おもしろくないの?|中前結花
わたしはよく、 「荒井注(あらいちゅう)のカラオケボックスじゃないんやから」 と言う。 すると、だいたい相手は「なに?(笑)」と聞き返すから、 「元・ドリフターズの荒井注は、ドリフ脱退後にカラオケボックスをやろうとしたんやけど、肝心のカラオケの機材がドアから入らへんくて、開店できへんかったのよ。だから、肝心なものは最初に段取らないと」 などと説明する。 相手は「なるほど」といった顔をして頷くから、わたしは満足だ。 大好きなエピソードで相手を説き伏せるのは気持ちがいい。 ちなみに、荒井注がドリフを脱退したのは1974年のことで、もちろんそれはわたしが生まれる10年以上も前の話。 わた
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別れるとき、さくらは流れた|中前結花
冬は、リビングに駆け込むと、いつも石油ストーブのムッとするような独特の香りが漂っていていて、わたしはこれが特別に好きだった。 実家で過ごしていた頃の話だ。 母は働きに出てはおらず、1日のほとんどをこのリビングで過ごしていた。 娘のわたしが帰ると、必ず玄関まで迎えに来てくれる。 「寒い!寒い!!」 と慌てて靴を脱ぐわたしに、 「おかえり。お部屋あったかいよ」 といつもリビングの扉を開けて招き入れてくれた。 今になって思う。 わたしの学生時代の記憶が半ばおぼろげなのは、もしかすると、このあたたかな部屋のせいではなかったろうか。 つまり、この部屋の外の出来事はすべて、わたしにとっては「有
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それはつまり、設楽さんなのか。日村さんなのか。|中前結花
その昔、カタカナの「シ」と「ツ」の書き方の違いを、バナナマンの日村さんに教えたのは、相方の設楽さんだ。 おかしな話だけれど、日村さんは「シ」と「ツ」、ついでに「ン」の書き方が怪しい。 設楽さんは何度だって「“シ”はね、“ツ”はさ、」と、その書き方について説明してきた。 その度に「そっかそっか」「またやっちゃった」と日村さんは言うけれど、おそらく、きっと、今でもあやふやなのだ。 うんと若いころ、2人が足を踏み入れた畳の楽屋には、座布団がいくつか積み上げられていた。 日村さんは、迷うことなくその上に「デンッ」と腰を下ろす。 設楽さんは「日村さん、どうしてその上に座っちゃうの?オレも居る
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「結婚」はしないと思ってた。|中前結花
「結婚」なんてしないだろうと思っていた。 だから、まだ付き合ってもいない彼から唐突に 「なんか……結婚したいですね」 と言われたときは、なんて気の合わない人なんだろうかと首を傾げたものだった。 「結婚は……、どうでしょう」 わたしは答える。 もちろん、そういう幸せのかたちがあることは知っているし、大切な誰かが誰かと結婚するとき、わたしは心の底から「おめでとう」と言うことができた。 けれど自分のこととなると、どうだろう。なんだか途端に妙な気持ちになるのだ。 きっと、「自分ではない誰かと、ひとつのかたまりのようになる」ということが、どうにも嫌だったのだろうと思う。 たとえばそれは、
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